TCFD提言に基づく情報開示

 NXグループは、豊かな未来を創るために、気温上昇を産業革命時期比 +1.5℃に抑えることを目指し、CO2排出量削減に積極的に取り組んでいます。本取り組みは、当社グループの持続的成長と企業価値向上につなげる上で必要となる経営上の重要課題と捉えており、これらの社会変化に対応していくことでリスクを最小化し、新たなビジネスチャンスの創出につながると考えています。当社グループでは、2022年5月にTCFD提言への賛同を表明し、2022年6月にはその提言内容に基づいて、TCFDの開示枠組みに沿った情報開示を行いました。2021年10月のTCFD提言の改訂を踏まえ、さらに開示内容の拡充に努めています。

※ 気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-Related Financial Disclosures )は、2015年に金融安定理事会により設立された、気候変動が事業に与えるリスクと機会の財務的影響に関する情報開示を企業に推奨する国際的イニシアティブ

目次

目次 主な開示内容
ガバナンス •NXグループにおけるサステナビリティ経営推進体制 NXグループにおける気候関連のリスクと機会の評価とマネジメントにおける経営陣の役割や取締役会の監督について記載
リスク管理 •リスクマネジメントの実施 NXグループにおける気候関連リスクを特定し、評価するためのプロセスや全社的なリスクマネジメント体制について記載
戦略 •気候変動がもたらすリスク・機会の特定 1.5℃シナリオおよび4℃シナリオを用いて、短中期・長期の気候関連のリスクと機会の特定と、NXグループの対応を記載
•特定されたリスク・機会による財務影響分析
•移行リスクによる財務影響分析
•急性物理リスク(急性)による財務影響分析
•機会(製品・サービス)による財務影響分析
特定された気候関連のリスク・機会のうち、移行リスク・物理リスク・機会(製品・サービス)における 財務影響分析のうち容と結果を記載
指標と目標 •NXグループCO2排出量削減目標
•NXグループCO2排出量実績
NXグループにおけるCO2排出量削減に関する中長期目標とScope1,2,3における排出量実績を記載
移行計画 1.5℃目標達成のための移行計画 NXグループにおけるCO2排出削減に関する中長期目標達成に向けた移行に関する削減ロードマップや財務計画などを記載

ガバナンス

■NXグループにおけるサステナビリティ経営推進体制

 NXグループのサステナビリティ経営の推進を目的にサステナビリティ推進委員会を設置しています。本委員会は、NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社の代表取締役社長(CEO)を委員長、同社サステナビリティ推進部を所管する本部長を副委員長とし、委員には、同社の執行役員に加え、2023年7月からは新たに主要なグループ会社のサステナビリティ推進担当役員も委員としています。当社グループにおける気候変動への対応を含むサステナビリティ全般の取り組み推進に関する方針・戦略などについて協議し、その協議結果を内容に応じて四半期に一度以上、取締役会へ報告します。取締役会では、気候変動への対応を含むサステナビリティ全般の取り組みの業務執行監督・レビューや基本方針・重要事項に関する審議・決議を実施しています。
 また、サステナビリティ経営推進を加速するため、報酬制度においては、連結売上収益などの業績指標に加えて、気候変動を含むESG関連の非財務情報も指標に含めて運用しています。

リスク管理

■リスクマネジメントの実施

 NXグループでは、NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社の代表取締役社長(CEO)を委員長とするリスクマネジメント委員会を設置し、グループ全体のリスク管理 の強化に努めています。また、サステナビリティ推進委員会では、重要課題(マテリアリティ)分析を実施しており、気候変動への対応強化を重要課題と特定しています。特定した重要課題についてリスクマネジメント委員会へ報告しています。

戦略

■気候変動がもたらすリスク・機会の特定

 NXグループでは、気候変動に対する自社事業および戦略のレジリエンスを評価し向上させることを目的として、気候変動によって想定されるさまざまなリスク・機会を把握し評価するためにシナリオ分析を実施しています。
 シナリオ分析の対象として、当社グループが目指す1.5℃シナリオに加え、脱炭素の取り組みが現状から進まない4℃シナリオを用いました。シナリオ分析により特定されたリスク・機会が当社グループの事業に与える事業インパクトを定性·定量的に評価を行い、対応策の検討を行っています。

※各シナリオにおけるNXグループへの事業インパクトを大(100億円超)· 中(10~100億円)· 小(10億円以内)の三段階で評価した。

■特定されたリスク・機会による財務影響分析

 シナリオ分析により特定されたリスク・機会のうち、事業インパクトが大きいと評価されたものについて、NXグループへの財務影響分析を実施しました。なお、本分析は外部シナリオなどをもとにしたシミュレーションによる分析であり、各シナリオの達成を保証するものではありません。

①移行リスクによる財務影響分析

 当社グループの中長期目標達成に向けては、大型トラックのゼロエミッション化技術や新燃料のインフラ整備状況などの社会動向を踏まえ、実行する削減施策を選択していく必要があります。中長期目標達成施策として複数のシナリオが想定される中で、各シナリオによる財務影響を把握するため、日本国内のグループ会社を対象に、2030年および2050年における複数の削減施策についてシナリオ分析を実施しました。

  • 分析対象・分析方法
     移行リスクによる財務影響分析の対象は、Scope1および2のCO2排出量削減目標達成に向けて、日本国内において実施する削減施策とし、2030年および2050年時点の財務影響を算定しました。また、分析手法は社会が1.5℃の世界へ移行していくことを前提に、2030年・2050年における当社グループのCO2排出量削減に関する中長期目標の達成にむけた車両・船舶入替コストやエネルギーコストを複数のシナリオで分析し、財務影響額の範囲を算定しました。
  • 設定したシナリオ条件
     移行リスクによる財務影響分析では、「1.5℃の社会へ移行していくが、NXグループは現状維持し、追加的に排出削減施策を実施しない」とするBAU※1シナリオをベースシナリオとしました。そのうえで、1.5℃の社会へ移行していく中で、当社グループが掲げる2030年のCO2削減目標および2050年のカーボンニュートラル目標達成を前提とする2つの削減シナリオとして、「バイオ燃料などの代替燃料を導入することで内燃機関など既存技術を積極的に活用する」とした既存技術活用シナリオ、「内燃機関(ICE※2)車両からBEV※3・FCV※4へ切替するなど新技術を積極的に導入する」とした新技術導入シナリオの3つのシナリオを設定しました。

    ※1: Business As Usual/現状維持の状態を指す
    ※2: Internal Combustion Engine/内燃機関
    ※3: Battery Electric Vehicle/バッテリー電気自動車
    ※4: Fuel Cell Vehicle/燃料電池車両
    ※5: ゼロエミッション船: 水素燃料やアンモニア燃料などにより、運航時のCO2排出量が実質ゼロとなる船舶

  • 分析結果
    2030年時点における移行リスクによる財務影響

     2030年時点における移行リスクによる財務影響分析の結果、日本国内における削減施策実施によって炭素税課税による損益への影響は緩和されますが(9~14億円)、削減施策実施コストを含む損益へのトータルの影響額は、2030年において年間▲ 7 ~ ▲ 12 億円と算定されました。一方で、1.5℃の社会に移行する中で、自社排出を削減することによる多排出サービスの需要縮小リスクの回避や低炭素輸送などの低炭素サービスの展開、省エネ技術や太陽光発電設備導入などによる削減施策実施コストの低減などの増益要因を考慮すると、移行に伴う減損は回避できる見込みです。

    ※6: 導入費(車両)については、総導入コストを車両の法定耐用年数5年で除して記載
    ※7: 導入費(船舶)については、総導入コストを車両の法定耐用年数15年で除して記載
    ※8: 削減実施シナリオはNXグループのCO2排出量中長期目標を達成することを前提にした既存技術活用シナリオおよび新技術活用シナリオが対象
    ※9: 削減施策実施コストは、日本国内のNXグループ各社における年間のエネルギーコストおよび車両・船舶の追加導入コストが対象
    ※10: Internal Carbon Price / 社内炭素価格

  • 2050年時点における移行リスクによる財務影響
     2050年時点における移行リスクによる財務影響分析の結果、日本国内における削減施策実施によって炭素税課税による損益への影響は緩和されますが(126~384億円)、削減施策実施コストを含む損益へのトータルの影響額は、2030年において年間▲ 197 ~ +100 億円と算定されました。一方で、1.5℃の社会に移行する中で、自社排出を削減することによる多排出サービスの需要縮小リスクの回避や低炭素輸送などの低炭素サービスの展開、また、新技術や燃料の市場やインフラ整備動向を見極めながら試験的に先行導入をすることで、本格導入時の効率的な導入・運用につながることによる削減施策実施コストの低減などの増益要因を考慮すると、移行に伴う減損は回避できる見込みです。

    ※11: 新燃料はバイオ燃料や合成燃料(e-fuel)を指す

②急性物理リスク(急性)による財務影響分析

 当社グループの気象災害によるリスクに対するレジリエンスを評価するために、シナリオ分析により特定された物理リスク(急性)のうち、豪雨、洪水、台風などの気象災害による事業活動停止リスクおよび自社資産損傷に伴うコスト増加リスクの財務影響分析を実施しました。当社グループが保有する倉庫拠点について、日本国内で影響が大きい70拠点(延べ床面積の約30%に相当)を選定し、対象拠点付近において河川氾濫による浸水が発生し、施設に損害をもたらすシナリオを設定しました。

 分析の結果、気象災害による事業活動の停止リスクは限定的であり、今回の算定範囲である国内の主要倉庫拠点における自社資産損傷リスクは 7.2 億円であると算定されました。今後、算定対象範囲などを拡大し、継続的に事業レジリエンスの評価、確認を行う予定です。

③機会(製品・サービス)による財務影響分析

 当社グループでは、Scope3 排出量削減に向けて低炭素輸送商品を開発、提供する体制を整備しています。特に、SAF※12の活用は、航空分野におけるCO2排出量の削減施策として重要であり、当社グループでも積極的に取り組みを進めています。今後の事業機会を評価するために、SAFを用いた航空輸送商品販売による収益増加機会の財務影響額を試算しました。その結果、32.2 億〜 64.5億円の収益機会※13が見込まれました。脱炭素化による市場変化を機会と捉え、競争優位につなげるため、当該領域について注力するとともに、他のサー ビスについても引き続き検討します。

※12: Sustainable Aviation fuel/持続可能な航空燃料
※13: 市場動向および当社グループにおけるScope1,2,3 削減目標達成を考慮し、2030 年のSAF 導入率を15% とした場合の単年の収益増加額

指標と目標

■ NXグループCO2排出量削減目標

 世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較し1.5℃に抑えるという世界的な目標の実現に貢献するため、これまで日本通運単体で削減目標を掲げていましたが2023年1月にNXグループ全体の中長期目標を設定しました。

 また、2023年5月に「SBT イニシアティブ(SBTi)」に対し、コミットメントレターを提出しました。今後、パリ協定が掲げる1.5℃に整合する目標の設定とその実現に向けて、一層の取り組みを進めてまいります。

※ SBTi (Science Based Targets initiative) :CDP・国連グローバル·コンパクト(UNGC)・世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF) の4 団体によって設立された共同イニシアティブ

■ NXグループCO2排出量実績

1.5℃目標達成のための移行計画

 NXグループは、世界的な平均気温上昇を産業革命以前と比較し1.5℃に抑制する社会への移行のために、当社グループ全体のCO2排出量削減に関する中長期目標として、2030年目標を自社排出のCO2排出量の50%削減(2013年比)、2050年目標をカーボンニュートラル社会の実現への貢献と設定しています。また、パリ協定が掲げる1.5℃目標と整合するために、2023年5月にSBTイニシアティブ(SBTi)に対し、コミットメントレターを提出し、現在申請に向けた準備を進めています。
 当社グループにおける中長期目標の達成に向けた移行計画として、現時点における主要施策とマイルストーンを示す削減ロードマップを策定しました。具体的な削減の取り組みとして、BEV車両を含む環境配慮車両の積極的な導入、LED照明への切替、再生可能エネルギー電力の導入などを計画しています。

 また、「NXグループ経営計画2028 Dynamic Growth 2.0 “ Accelerating Sustainable Growth 〜持続的な成長の加速〜 ”」において、環境配慮車両の導入などの気候変動への対応を含むサステナビリティに関する投資額として、250億円を計画しています。
 今後、1.5℃目標達成にむけた移行を着実に進めるとともに、科学的進歩や技術動向、社会動向などを踏まえて、ロードマップおよび排出削減施策は適宜、見直しと更新を行います。